バルカナイズの歴史 もくじ
- 「ゴム」という素材の発見
- ニュートンと消しゴムとマッキントッシュ
- グッドイヤーの発見
- トーマス・ハンコックとバルカナイズ製法
トーマス・ハンコック(Thomas Hancock 1786 – 1865) image from archive.org
トーマス・ハンコックが1857年に発表した著書「イングランドにおける天然ゴムとインディアゴム製造の起源と進歩の個人的な物語」(Personal narrative of the origin and progress of the caoutchouc or india-rubber manufacture in England)に描かれたハンコックの肖像画
発明家 トーマス・ハンコック
チャールズ・グッドイヤーが生前、1844年に特許を出願する2年前、グッドイヤーがイギリスへ送った代理人により「例のゴム」のサンプルがトーマス・ハンコックという発明家の手に渡ることになります。
イングランド・マールボロ出身のトーマス・ハンコックもまたゴムという素材に魅せられ、天然ゴムの欠点である「腐敗」や「粘着性」などの解決策を研究していました。
ハンコックが率いる研究チームは、グッドイヤー自身がまだ完全にプロセスを理解していなかった(偶然の産物であった)「例のゴム」の分析を開始します。
硫黄などの添加剤や加熱温度など、ゴムが素材として安定する「仕組み」が解明され、製法を確立したハンコックは1843年11月21日、この特許を取得します。皮肉にも「例のゴム」を発明したチャールズ・グッドイヤーがアメリカで特許を取得した8週間前のことでした。
さらに「マッキントッシュコート」の共同開発者でもあったトーマス・ハンコックは、創設者チャールズ・マッキントッシュの死後、工場の経営を受け継いでおり、まだ不完全であったレインコートに硫黄添加のゴムを応用。「マッキントッシュクロス」と呼ばれるゴム引きの繊維はここで完成。(暑くなると生地同士がくっつき、寒くなると生地がかたくなってしまう)単なる防水作業着であったマッキントッシュコートはファッションアイテムへと変貌していきます。
バルカナイゼイション
トーマス・ハンコックが1857年に発表した著書「イングランドにおける、天然ゴムとインディアゴム製造の起源と進歩(の個人的な物語)※1」の中にはこう書かれています。
私の友人ウィリアム・ブロッケドンは「バルカナイゼイション(VULCANIZATION)」という呼び名を私に提案しました。「硫黄」と「熱」の使用を表現する言葉として「神話のバルカン(Vulcan)※2」から拝借したもので、私はそれを採用することにしました。
現在「バルカナイゼイション」(または「バルカナイズ」、「加硫」)と呼ばれるゴム製品のための基本工程は、チャールズ・グッドイヤー、トーマス・ハンコックという2人の発明家によって完成しました。
※1Personal narrative of the origin and progress of the caoutchouc or india-rubber manufacture in England
※2バルカン(Vulcan):ローマ神話に登場する火と鍛冶の神。ウゥルカーヌス、ウルカヌス(Vulcānus)とも呼ばれます。
トーマス・ハンコックの著書「Personal narrative 〜」に掲載されたゴム製品の数々
航海用品(Nautical Articles)image from archive.org
(写真上)船の上で作業する際の服(コートやフード、防水帽にデッキブーツなど)、救命用のボートや浮き輪やライフジャケットのようなもの(「ライフベルト」と書いてあります)などが掲載されています。
家庭用品(Domestic Articles)image from archive.org
(写真上)空気でふくらます(ビニールプールのような)ゴム製浴槽、バス周りのアイテム(石けん入れやスポンジ入れ、バスキャップ、クッションなど)。ほかに、ベビー用品(哺乳瓶の乳首とおしゃぶり、「ベビージャンパー」というロンパースのようなものには天井から赤ちゃんをぶら下げる長いゴムチューブがついています!)、さらに、煙草のケースとパイプのようなもの、ビンの栓、ゴム製のエキスパンダーなどが掲載されています。
スポーツ用品(Sporting Articles)image from archive.org
(写真上)フィッシング用のウエア(ウェーダー(胴付長靴)、フィッシングブーツ、ハット)、フィッシングボート、猟銃のカバー、弓矢、クリケット用品、サッカーボール、乗馬用品(馬具・馬装具)などが掲載されています。
ハンコックの成功後、ゴム産業が急激に発展。バルカナイズ(加硫)の工程が確立することで、天然ゴムは無加工の状態よりも腐敗しづらく、気温が上がっても下がっても変質することがなくなりました。さらに弾性(力を加えると変形するが、元に戻る)が安定したことで本格的に製品化されていくことになります。
ハンコックが提示したゴム製品のバリエーションは、その後のゴム産業に影響を与え「バルカナイズされた製品」は世界じゅうに広まっていきます。
ゴムメーカーがスポーツシューズの生産を開始
「靴底にゴムを使用する」という技術はゴムボールを発明した古代メソアメリカの人々から発想されていたことですが、耐久性という面で他のゴム製品同様、完成品には至りませんでした。しかし、バルカナイズ(加硫)という技術が開発された※3ことで飛躍的に発展します。
※3 このことからラバーソールシューズの発明をトーマス・ハンコックによるもの(または、チャールズ・グッドイヤーによるもの)と捉える記述も多いようです。
そして、耐久性が必要なスポーツシューズの分野に参入を開始したのがバルカナイズ製法を手に入れたゴムメーカーでした。
リバプール・ラバー・カンパニー(現ダンロップ)はキャンバスアッパーのラバーソールシューズ「プリムソール」を生み、コンバース・ラバー・シュー・カンパニー(現コンバース)は「チャックテイラー」を生みバスケットボールシューズというジャンルを確立。BFグッドリッチ(現ミシュラン傘下)は「PFフライヤー」や「ジャックパーセル」を、USラバーカンパニー(後のケッズ)は足音のしない静か(sneak)な靴「スニーカー」を生みます。
バルカナイズ製法によるスニーカー製造工程(一例)
スニーカーを一足一足手作業でバルカナイズ(加硫)していた頃の、バルカナイズ製法のなかでも最も古い製造方法の一つ。写真は北スペインのスニーカー工場の作業風景で、一説によると100年以上前にスペインで発明されたこの製法(当初はレザーシューズに靴底を付けるための技術)が、ヨーロッパやアメリカに広まり、現在の「バルカナイズ製法の靴」の元になった※4とも言われています。
※4 この製法はスペインのチェマプロセスが発端で、イタリアではピント式、アメリカではロサーチ式として世界に紹介されました。:ぜんしん「靴の商品知識」より
image from www.naturalworldeco.com
金型にスニーカーのキャンバスアッパーになる部分をセッティングします。
サイドテープをソール部分に巻き付けます。
スニーカーの靴底にラバーソールになる未加硫ゴムのパーツをセッティングします。
左右と上部の金型を固定し圧力と熱を加えていきます。
金型からスニーカーを取り出します。
キャンバス部分とラバーソール部分は完全に一体化しました。
まだ高温で湯気が出ている状態です。靴を冷まして、バリ(ゴムがはみだした部分)取りなどの仕上げをして出来上がりです。
参考資料:
Wikipedia Thomas Hancock/
bouncing-balls.com Thomas Hancock,archive.org, naturalworldeco.com
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